死ぬか天才か

ハグ林のだだ漏れ思考整理簿(予定)

うつし世はゆめ


うつし世はゆめ
夜の夢こそまこと

鳥羽の江戸川乱歩記念館でこの言葉を見たときは、なんだか「アァー」ってため息が胸のうちからどろんと溢れて、乱歩もやっぱりそうなんだ、いやー僕もそうなんです、なんて独り言いいながら嬉しくなって、でもその反面世の中からの疎外感みたいなものもバチンと思い知らされて悲しくもなったのをよく覚えている。

ぼくは夢が好きで、特別に興味を持っている。
夢の中のぼくに訪れる感情は現実のものよりずっと純度が高い。本当のぼくの魂は夢の中にあるんじゃないかと疑っている。
うまく言えないけど夢が好きです。
ぼくの精神の未熟さがそうさせるのだと思う。

大学生の頃、世界が終わる夢を見た。
ぼくは友達と旅行に行って旅先の古い大きな日本家屋に泊めてもらうことになった。その家には無口な女の子が住んでいて、何を言っても全然答えてくれなかった。
宿泊先で殺人や怪現象が起こり始めた。日本家屋の書斎から見つけた本に、この地域にまつわる猟奇的な伝承や世界を終わらせるバケモノの存在が記されていること発見した。
ぼくたちは力を合わせて困難に立ち向かって、多くの問題を乗り越えた。無口な女の子も、何も言わないけれどぼくたちに協力してくれた。ぼくは嬉しくって、多分その子の事が好きだった。
でも結局世界の終わりを防ぐことはできなくて、もうすぐみんな死んでしまう事が決定してしまった。もののけ姫のだいだらぼっちみたいな青く光る巨人みたいなのがどんどんと膨らみながらその光度を上げていくのをただみんなでぼんやりと見ていた。たぶん、こいつが世界を終わらせるんだと思う。
ぼくは最後に、女の子の名前を聞いた。女の子は「小春」と答えてくれた。ずっとつまらなさそうにしていた彼女がニコニコと笑って僕を見上げたから、ぼくは本当に嬉しくなってたしか小春ちゃんの手を握った。もう数秒で弾けるだろう巨人を見ながら、心は幸せに包まれていた。何もかも美しくて誇らしくて、死ぬことなんて何も怖くなかった。

目がさめるといつもの散らかったアパートだった。付けっ放しで寝てしまったテレビから、丁度今日の天気予報の解説がされていた。
「今日は小春日和となるでしょう」
そうお天気お姉さんが言った。ぼくは「アァー」とため息をはきながら胸からどろんとしたものが流れ落ちるのを感じた。夢の中でなら慟哭してもおかしくはなかったその感情は、現実の中では虚しさと怒りと情けなさとなんかを混ぜこぜたよく分からない粘稠質のものになってただどろんと溢れて出たのだ。
ぼくの愚かな恋は現実に負けた。
天気予報の一言に踊らされて弄ばれた。
夢だった。たかが夢だった。
死ぬことも怖くなって、幸せは無くなった。

ぼくは今でも彼女に申し訳ないとたまに思う。
顔も声ももう思い出せない。
ただ小春という名前だけがいつまでも残っている。

クレヨンしんちゃんの夕陽のカスカベボーイズとか観ると眉毛がハの字になっちゃう。
弱虫だとか根性無しだとか言われたって、ぼくは夢が好きなんだよな。

夜の夢こそまこと!